人材紹介企画 「コーキョーメグリ」vol.3【池田 次郎】
↑元気発信の基地キセラ川西プラザ
池田次郎さん
兵庫県川西市(市制70周年記念事業事務局)
‐聴く人・書く人‐
鈴木 克典(静岡県島田市)
鈴木 克典 | Public Platform (public-platform.jp)
兵庫に向かうはずだけど、まず降り立ったのは新大阪。更に西へ結構な移動を覚悟していたものの、行ってみたら池田さんは意外と「大阪の向こう」にいた。とはいえ、関西の私鉄に翻弄されぬよう、JR宝塚線直通の電車を待つ。梅田から阪急宝塚本線を利用する方が王道なのだろうが、乗り間違えて京都や神戸に運ばれてはかなわない。
空いている乗り口を探し、ホームを歩く。入線が近づくにつれ周囲が混雑するも、一番先に乗れそうだ。ひと安心と思ったのも束の間、ドアには「女性専用車両」の文字…。急いで近くの行列の最後尾に付く。苦笑いを隠すため少し伏せていた顔を上げると、もう尼崎を過ぎていた。左手に見えるのは六甲山系だろうか、ほどなく川西池田だ。
行政職の道を選んだ理由など、入庁後の経歴などと併せてお話しいただけますか?
儲けることに興味が湧かなくて、漠然と仕事の目的は金銭ではなく、みんなのためがいいと考えていました。それと、地元で暮らしたかったんです。結果的に、その二つを満たす一番大きな企業が川西市役所でした。
2009年(平成21年)に入庁したので、市職員16年目に突入しました。まず広報担当を7年間、その後は子ども若者政策課(後の子ども支援課)と教育政策課を歴任し、待機児童対策や社会的に課題のある若者支援、それから教育全般の企画立案に携わってきました。昨年度からは、市制70周年記念事業事務局に配属されると同時に、川西市まちづくり公社に出向して記念事業を手掛けています。
広報広聴課に7年間も在籍した一方で、1カ所目の部署でもあり、それぞれの立場で葛藤があったのではないですか?
入庁していきなり広報誌を担当するのは、ちょっと嫌でした。それは正直、自分の仕事として誇りを持てるような広報誌ではなかったからです。理由の一つは、掲載を依頼された記事で誌面を埋めるだけでは、市民とコミュニケーションを取るツールになっていないと感じたからです。
気付きをくれたのは「月刊広報」に載っている、作り手の想いを感じられる広報誌の事例でした。デザインも中身も、しっかり成立している。明らかに川西市とは違うアプローチの自治体広報誌が多くあることを知り「なんでウチにはできないんやろう?」と焦り始めましたね。
転換点は、岩手県藤沢町の畠山浩さんの講演でした。魅力的な広報誌を作っている人の生声を聞けて「自分にもできるのでは」と思えたことは重要でした。単に全国の事例を見ているだけだと、自分が勝手に敏腕担当者を想像して「できっこない」と思ってしまいがちです。でも、実際に言葉を交わすと(部分的だとしても)同じ仕事の仕方をしていると分かります。その時、何を変えていけばいいのかが少し見えたことは、僕にとっては大きな収穫でした。
広報誌を好きになり読むことで、自分の取材に奥行きが足りないことも分かってきました。広報紙と向き合うようになったから、変わっていけたのだと思います。
新米担当者に代わって、あえてお聞きします。「広報誌と向き合う」とは、どういうことでしょうか?
住民と行政を繋ぐ媒体であるものを、ちゃんと作りたいという軸を持つことですね。コミュニケーションのツールにならないものを、例えば毎月100万円かけて7万部も刷ること。自分の中では、常識として成立しませんでした。
僕の場合、この軸を持って全国広報コンクールの受賞作品を細かく分析することで、レイアウトの秀逸さや文章の読みやすさに気付くことができたんです。その後、誌面のリニューアルに踏み切る自信も持てました。
写真とデザインに特化したナレッジシェアにも取り組んでいますね。なぜ、広報誌づくりの総論でないのですか?
広報誌を成熟させるアプローチは、人それぞれですが、僕はビジュアルが重要なパートを担うと思っています。特に写真は、新任でもすぐに広報誌を変えられる手段です。文章は情報を抽象化して伝えるけれど、写真ならリアルな画像で直感的に伝えられます。シャッターを押した分だけ上手くなるから、ベテラン担当者に追い付けるし(笑)
デザインに関しては僕自身、一線で活躍するデザイナーと仕事をしながら独学で吸収しました。努力が必要な分野なのは確かですが、もしも学びのチャンスが無かったら、スキルが向上しなかったとも思います。だから、僕が持つ能力の限りですが、機会を作れればと「Photo&Design」と題したYouTubeチャンネルを立ち上げ、ナレッジシェアすることにしました。一度、覗いてみてくださいね。
Photo&Design(フォトアンドデザイン) - YouTube
他の自治体に知ってほしい、池田さんの強みは?
広報担当者への継承は、畠山さんも鈴木さんも高い経験値からマインドの部分で役割を担ってくれている。であれば、もう一方の役割で重要だと考える写真とデザインの部分を自分が担えればと思っています。分かりやすいのは、広報誌のリニューアルでしょうか。
民間のデザイナーと一緒に広報誌を作るとして、例えば特集の意義を理解・想像してもらうことは簡単ではない。自治体広報の業務と役割を知り日々考えているからこそ、全体を見ながら一緒に考えられると思っています。
最後に、池田さんにとっての「公共」とは?
協力の基盤のようなもの、それが「公共」ではないでしょうか。広報を離れても、自分が持つスキルを共有しているし、僕自身も全国の仲間からチカラやキッカケをもらいました。利益目的の民間企業では、こうはいきません。「そんなん、教えんでも…」とならないのは、互いのためを考えられる公務員という立場にいるから。一般的な定義でないとしても、僕にとっては「やったらエエやん!」と素直に言える環境が公共ですね。
感謝しているから返したい。公務員に限らず「みんなのために、やったらエエやん!」との想いを持っている人は地域にいますよね。だから思うんです、その公共を広げるには、コミュニケーションを生むイイ広報が必要だって。
【帰路の車中で想う】
絶妙なツッコミで人の懐に入り、本音を引き出す池田さん。ついつい、こちらの話が長くなり日が暮れてしまったので、本数が多い阪急で帰ることにした。王道だ。
マルーン色の車両に乗り込み、ふかふかのアンゴラ山羊シートに腰を下ろす。新型になっても、見紛うことのない意匠。移ろいに争わず、でも軸は動かさず、なんかイイ。変化と継承のバランスを、悩みつつも楽しんでいる感じ。ふっと彼のつぶやきを思い出した。「また違う視点で猛者が現れてほしい」広報誌づくりの沼にハマった人たちは、そんな好奇心を抱くのかもしれないな…知らんけど。
‐話す人‐
池田次郎(イケダジロウ)兵庫県川西市(市制70周年記念事業事務局)
池田 次郎 | Public Platform (public-platform.jp)
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