人材紹介企画 「コーキョーメグリ」vol.2【中本 正樹】
↑人々を照らす四季文化館みの~れ
中本 正樹さん
茨城県小美玉市(四季文化館みの~れ)
‐聴く人・書く人‐
鈴木 克典(静岡県島田市)
鈴木 克典 | Public Platform (public-platform.jp)
中本さんに会うため、茨城へと向かう。イバラギではなくイバラキだ。日暮里駅が起点の常磐線、私の世代なら始発は上野。でも今では、東京や品川へも延伸され、新幹線からのアクセスがすこぶる良くなった。その分、上り電車で寝過ごすと、西へ西へといざなわれてしまうけど。
今回は、特急ではなく特別快速に乗車。ベンチシートの大きな窓の外では、頻繁に橋梁の残像が飛び去っていく。荒川、中川、江戸川、利根川。渡る度に平野の割合が増えていくんだな…なんてぼんやり眺めていたら、目線の先に筑波山が見えてきた。土浦で、懐かしい「赤電」仕様の普通列車に乗り換えたら、程なく最寄りの石岡に到着。ダイヤモンドシティだけに、目が眩むくらいピーカンだ。
地元生まれの地元育ちだと伺いました。就職も地元にこだわって、行政職を選んだのですか?
旧美野里町の出身で、大学までずっと地元で過ごしました。高校では野球に没頭していたので、その当時はプロになる以外、夢など抱いていなかったですね。地元で就職したのは、父親たちが必要としてくれたから。若者が活躍する場所を、よく作ってくれていたんですよね。なので、行政の仕事に魅力を感じたというより、地元に残るなら「まちで活躍できる一番の企業」に就職しようと考えた結果、町役場を選んだというのが正直なところです。
町村合併を経て小美玉市の誕生に立ち会った訳ですが、印象深かった部署などを、お話いただけますか?
まずは入庁3年目に、みの~れ立ち上げに関わったことですね。野球しかやって来なかった人間が、文化センターのオープニングでミュージカルを任されたんですから、目まぐるしいに決まってます。でも初めて、自分を出していい、創意工夫できる職場だと感じました。それまで、住民は「顧客」職員は「公僕」と教えられてきたのに、周囲から「中本さんは住民を立て過ぎ」と言われるなんて、思ってもみませんでした。半信半疑で実際に行政職員としての立場から離れて、人間同士の付き合いや発言を自己開示していくと、住民との関係が凄く良くなりました。
その後、2008年に小川町・美野里町・玉里村が合併して小美玉市が誕生すると、文化センターが3つに増えました。そのうちの「アピオス」大ホールの稼働率は当時14.7%。これを何とか改革しろという難題も、忘れ難いですね。とにかく勉強して事例を調べ、戦略を立てて実験しながら上手い方法を考えるしかない。辛いことも多々ありましたが、3年で70%台にまで改善できた達成感と同時に、住民と改革を行う楽しさを味わうことができました。
小美玉市独自の「対話の文化」を継承し進化させたシティプロモーションが、各方面で評価されていますね。
かつて旧美野里町では地域青年組織「青年団」が、異なる文化や価値観を許容し、共有できる部分を見つけ出し、納得できる解を見出す「対話の文化」を培ってきました。
団の活動休止後「ポスト青年団」として地域のリーダー育成を担うのが、みの~れです。どうすれば人や組織は動くのか。創造活動を通して「対話の文化」を体得し、まちへの愛着と誇りと当事者意識を持つというシビックプライドの醸成は、今では小美玉市版総合戦略のダイヤモンドシティプロジェクトや全国ヨーグルトサミットなどへと広がり、シティプロモーションの原動力になっています。一人でも多く「まちにマジになる人」を増やし、小美玉に関わる人々の幸せを持続させられたらと考えています。
小美玉市以外でも「対話の文化」を取り入れられますか?
よく住民から「市役所の担当課と対話を試しみるも、拒絶されたのはなぜ?」と相談を受けることがあります。市役所側からすると、急に何を要望されるのか構えてしまいますよね。反対に、対話の姿勢が身に付いていない職員が住民と直接交渉すると、権限を振りかざしたり上から目線だったりと、住民を苛立たせてしまうこともあります。職員の事前準備として、礼儀や流儀を身に付け、勤務地外の住民との対話に慣れてから、地元の交渉に赴くような緩やかなステップが必要ではないでしょうか。地域に関わらず「対話の文化」を取り入れることで、利害関係ではなく、共感を整理して分かり合うことができるはずです。
ズバリ、他の自治体に知ってほしい中本さんの強みは?
小美玉市のシティプロモーションの核になったのは、まちにマジになった住民と、「一定のクオリティ」の保持です。不特定多数の住民に発信する際、若者にダサイと受け取られてしまうと逆効果です。そこで活躍するのが地元クリエーター…でも行政は公正平等でなければならない。鍵は、中間事業者の存在です。
住民から行政への信頼度が高いと職員が動き過ぎてしまい、異動となればノウハウと人脈を失いプロモーション全体が失速してしまいます。もしも、行政の事情も住民の思いも理解できる事業者がいれば、自由に地元クリエーターを抜擢できますし、行政と住民が徐々に歩み寄るための通訳も継続性を持って任せられますよね。そんな両者の伴走者としてのポジションが、私の活躍の場かもしれません。
最後に、中本さんにとっての「公共」とは?
「公」は御上が決めた、ルールや法律に制された部分。対して「共」は何も決まってない、自分たちで作り上げる部分のような印象を持っています。
両方とも大切だから、併わせて「公共」が成り立っている気がします。だから、行政が固めていいのは公で、共は関わりしろ、余白として残さないとダメなんです。人は、アレンジできる部分に魅力を感じます。決まったレシピの料理も美味しいですが、創作料理や大勢でのバーベキューの方が思い出に残りますよね。まち作りも同じ。自分の言葉で自分のまちを語れる空間が、公共ということではないでしょうか。小美玉市には、余白ありまくりです!
【帰路の車中で想う】
小美玉市と聞くと「対話の文化」を連想する人は少なくないだろう。でも「具体的に何?」と聞かれると、説明に窮していた自分。なので今回は、自主研究会「小美玉オフサイトミーティング」に参加させていただき、住民の皆さんとの自己開示を体験。んー、共感し合うって心地いい。
中本さん曰く「対話の文化は『まちの腕立て伏せ』。人と手を繋ぐには共感という基礎体力がないと、すぐに緩んでしまうから」。人は人にしか動かされない、ということだろう。朗らかの代名詞のような彼との会話を終えた時、黄昏る筑波山…ただただ正直でありたいと思った。
‐話す人‐
中本 正樹(ナカモト マサキ)小美玉市四季文化館みの~れ館長補佐・事業統括
中本 正樹 | Public Platform (public-platform.jp)
素敵なコラム、ありがとうございます。
公と共の考え方、いいですね。
そして冒頭の写真、最高です。
中本さんが、小美玉市民と一緒に使い倒した空間。
正直でありたい。。。
同感です。
青木さん
コラムも写真も鈴木さんの手によるものです!
さすがの腕前に唸りました。
青木さんの前でも「正直でありたい」ですよ。
これからも仲良くしてください!
小美玉市の対話の文化の中に、人を育てると言う感覚があると思っています。意外と人が育つ自治体は少ないのではないかと感じています。
素晴らしい記事、ありがとうございます。
中本さんと話していて、対話に込める意味として、地域の人を育てると言う意味が込められていると感じています。人が育つ地域、素晴らしいですね。
今井先生
ありがとうございます!
地域の人を育てているつもりで、
実は職員が育てられているんですよね。
まちにマジになる人が官民双方に増えていくのが
対話の文化の成果です。